ネズの妖精
ちょいと時間が経ってしまったが、2週間ほど前の事。
昨年あたりからだったか、とある知人からキオビツノカメムシが採れるかもしれない、というお話を聞いていた。
キオビツノカメムシは2013年に再発見されるまで約50年に渡りその記録がなかった珍カメムシで(山本ら,2014)※1、数年前に写真がないかという問い合わせが来ていたが、さすがに持っていない…という返答をせざるを得なかった種である。
んーむ、一度は見てみたい。
丁度直前にツイッター上でキオビツノカメの画像も出回ったし、タイミングもよさそうだということでチャレンジさせていただくことにした。
さて、キオビツノカメを探す際に目印となるのが寄主であるネズの木だ。
正直メジャーな樹種ではないし、針葉樹ということで虫屋には縁がなさそうだが、カミキリ屋さんにとってはアティミアことケブカマルクビカミキリの寄主としてそれなりに知名度がありそうだ。
かくいう自分もネズはケブカマルクビの付く木としてインプットされていた(見たことがあるとは言っていない)。
そして目立たないが一度探し出すと方々で目につくようになる不思議。
ちなみに新葉はまだしも成熟した葉はかなり固く鋭い。
つまり痛い。
舐めてると結構泣かされる。
ついでに木曽五木のネズコはクロベのことで、ネズのことではないらしい。なーんだ。
ネズは雌雄異株である。
そしてキオビツノが付くのは雌株で実の付いたものだけらしい(なんて贅沢な)。
実はこんな感じ…だが、成熟度合いで結構見た目が変わる。
この時期の雄株には雄花が付いているので見分けやすい。
茶色くてちっちゃいのが雄花である。
いかにも風媒花の針葉樹らしい花だ。
実の付いた雌株を探して気を回っているうちに気が付くのは、それぞれの木が雄花の付いている雄株と実の付いている雌株、そしてどちらも見当たらない性別不明の3つに分けられることだ。
なんでだろう?と疑問に思っていたのだが、どうやら実が成熟するには数年がかかりそうだ。
良く見ればこんな未熟果らしきものがついている木もある。
ふむ、実をつけるのにも周期があるのかと腑に落ちる。
で、最初は意気揚々とルッキングで探していたのだが、何しろ相手が相手だからさっぱり見つからない。
開き直って長竿を取り出し、雌株と見ればとにかくスイープしてみる。
痩せ尾根を辿りながらアカマツに交じって点々と生えているネズをとにかく虱潰しに掬う、掬う、掬う…→エンドレス
不毛な作業を続けながら「ああ、一人でこれやってたらもう帰ってるわ…」なんてことが頭をよぎる。
…と、何本目か考えるのが嫌になってきたあたりの木で見覚えのある影。
ふおおーはいってるーーー。
すでに頭がおバカになっているのでそんな感想しか出てこない。
ともかく、幻のカメムシは実在した。
入ったネズ。
そこそこ大きい木で、かなり上の枝から二個体が採集できた。
帰ってからのスタジオ撮影。
キオビ様は国内のどのツノカメとも雰囲気が違う。
それもそのはず、本種が属するCyphostethus属は旧北区から4種のみが知られる小さなグループだそうな。
ヨーロッパの種類はビャクシン類に付くんだとか。
しかしなんで50年も見つからなかったの、キミ。
しかもネズなんてアティミア狙いの人たちが散々スイープしてるのに、これまで見つからなかった理由が説明できない。
謎。
成虫が見つかる前に見つけた謎の卵塊。
どうもキオビツノっぽいし、持ち帰ったら確かにカメムシが孵化してきたのだが、2齢幼虫が未熟果に食いつかない…。
なんか条件があるのだろうか…。
何はともあれ、無事UMA退治ができました。
情報をいただいたKさん、ありがとうございました。
2018年5月 長野県某所
※1:山本亜生・林正美・遠藤正浩,キオビツノカメムシの再発見 Rediscovery of little known bug, Cyphostethus japonicus HASEGAWA, 1959 (Heteroptera: Acanthosomatidae),Rostria (56), 47-50, 2014-01-31,日本半翅類学会
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2018.05.24 | Comments(0) | Trackback(0) | カメムシ
